
WISC-Ⅴのワーキングメモリーとは?勉強が覚えられない・暗記が苦手な理由
WISC-Ⅴ(ウィスク・ファイブ)などの知能検査を受けると、結果に示される指標の一つに「ワーキングメモリー」があります。
ワーキングメモリーは、情報を一時的に頭の中に保持しながら、考えたり、整理したりするときに関係する働きです。
この働きが関係して、「学習したことが定着しない」「先生の説明を聞いても内容を忘れてしまう」「聞いたことを理解するのが難しい」など、日常生活や学習場面で困りごとを感じることがあります。
一方で、「ゲームのことはすぐに覚えられるのに、英単語は覚えられない」「興味のある電車のことは覚えられるのに、学校の勉強は覚えられない」といったこともあります。
好きなことは覚えられるのに、勉強になると覚えられないのはなぜなのでしょうか。
また、何度も勉強しているのに覚えられなかったり、覚えたはずの内容をすぐに忘れてしまったりするのは、記憶力やワーキングメモリーと関係しているのでしょうか。
こうした疑問を考えるためには、まず、記憶の種類や物事を覚える仕組みについて知ることが大切です。
今回は、記憶の種類や記憶力の仕組みを整理しながら、暗記が苦手な理由、勉強が覚えられない理由、学習したことを忘れてしまう背景について解説します。
さらに、WISC-Ⅴのワーキングメモリー指標(WMI)では何を測っているのか、ワーキングメモリーと学習にはどのような関係があるのかについてもお伝えします。
記憶の種類とは?感覚記憶・短期記憶・長期記憶の違い
記憶は、情報を保持する時間や、その働き方によって、さまざまな種類に分けて考えることができます。
ここでは、感覚記憶、短期記憶、作業記憶(ワーキングメモリー)、長期記憶について説明します。
それぞれの記憶には異なる特徴があり、勉強したことを覚えたり、学習した知識を記憶に定着させたりする過程にも関係しています。
・感覚記憶とは?
感覚記憶とは、目や耳などから入ってきた情報を、ごく短い時間だけ保持する記憶です。
私たちは、生活している中ですべての情報を覚えようとしているわけではありませんよね。
例えば、目の前を通り過ぎた景色が、ほんの短い間、目に映った情報として残ることがあります。
このように、見たり聞いたりした情報が、ごく短い時間だけ保持されることを感覚記憶といいます。
ただし、見聞きした情報がすべて長期的な記憶として残るわけではありません。情報に注意を向けたり、意味を理解したりすることなどが、その後の記憶に関係してきます。
・短期記憶とワーキングメモリー(作業記憶)とは?
短期記憶とワーキングメモリーは、どちらも情報を一時的に保持することに関係していますが、厳密には同じものではありません。
例えば、電話番号を聞いて、電話をかけるまでの間、頭の中に覚えておくことは、短期記憶の一例です。
一方、ワーキングメモリー(作業記憶)は、情報を一時的に保持するだけでなく、保持した情報を使って考えたり、操作したりするときにも関係します。
例えば、「聞いた数字を反対から言ってください」という課題では、数字を覚えておくだけでなく、頭の中で順番を入れ替えて答える必要があります。
このように、情報を一時的に保持しながら、考えたり、整理したり、操作したりする働きを、ワーキングメモリー、または作業記憶といいます。
ワーキングメモリーは、学校の勉強にも関係しています。
先生の説明を聞きながら内容を理解したり、計算の途中で数字を覚えておいたり、文章を読みながら前に出てきた情報と結びつけたりするときにも、この働きが使われます。
そのため、ワーキングメモリーに負荷がかかりやすい場合、聞いたことを覚えておくのが難しい、説明の途中で最初の内容を忘れてしまう、といった困りごとが生じることがあります。
・長期記憶とは?
長期記憶とは、経験したことや学習した知識などを、比較的長い期間にわたって保持する記憶です。
長期記憶には、さまざまな種類があります。
皆さんも経験したことがあると思いますが、自転車にしばらく乗っていなくても、久しぶりに乗ってみると乗れたり、縄跳びができたりすることがありますよね。
このように、身体で覚えた動作や技能は、時間がたっても身についていることがあります。
また、自分が経験した出来事や、これまでに学んだ知識なども、長期記憶に関係しています。
長期記憶には、例えば次のような種類があります。
意味記憶:言葉の意味や知識、事実などに関する記憶
手続き記憶:自転車の乗り方など、動作や技能に関する記憶
学校の勉強で学ぶ言葉の意味や歴史上の出来事、さまざまな知識は、主に意味記憶に関係しています。一方、自分が体験した出来事はエピソード記憶、身体で覚えた動作や技能は手続き記憶に関係しています。
よく、「自分が経験した出来事はよく覚えているのに、学校の勉強になると、なかなか覚えられない」「何度勉強しても、学習したことが記憶に定着しない」といったお話を聞きます。
こうした違いには、記憶の種類だけでなく、興味や注意、理解の仕方、復習の頻度など、さまざまな要因が関係していると考えられます。

物事はどのようにして覚えられるの?記憶の仕組みと定着
では、私たちは、どのようにして物事を覚えているのでしょうか。
勉強したことが覚えられない、暗記が苦手、覚えたことをすぐに忘れてしまうと感じるときには、情報を覚えるまでの過程について考えてみることも大切です。
まず、物事を覚えるためには、情報に注意を向け、内容を理解したり、すでに知っていることと結びつけたりすることが役立ちます。
例えば、「reassurance」という英単語を覚えたいとします。
皆さんは、アルファベットの並びをいきなり覚えようとするでしょうか。それとも、ただ眺めるだけでしょうか。
まずは、自分で声に出して読んでみるかもしれません。また、覚えやすいように区切ったり、意味を調べたりする方もいらっしゃるでしょう。
このように、物事を覚えようとするときには、音や意味など、さまざまな情報を手がかりにします。
さらに、その単語の意味を理解したり、すでに知っている日本語の知識と結びつけたりすることで、覚える内容を整理しやすくなります。
つまり、情報をただ眺めるだけでなく、注意を向け、意味を理解し、自分がすでに知っていることと関連づけることが、記憶を助ける場合があるのです。
そして、一度覚えた情報を繰り返し使ったり、時間を空けて復習したりすることで、長期的な記憶として定着しやすくなります。
一方で、一度覚えたからといって、その情報をいつでも思い出せるとは限りません。
時間がたつにつれて忘れてしまうこともあれば、覚えているはずなのに、必要なときに思い出せないこともあります。
例えば、テストのときに「勉強したはずなのに答えが出てこない」と感じた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように、情報を覚えることと、必要なときに思い出すことは、必ずしも同じではありません。
勉強したことが覚えられないときや、学習した内容をすぐに忘れてしまうときには、情報を理解する段階で難しさがあるのか、記憶に定着しにくいのか、それとも必要なときに思い出すことが難しいのかを考えてみることも大切です。

好きなことは覚えられるのに勉強が覚えられないのはなぜ?
では、なぜゲームや電車など、興味のあることは覚えられるのに、学校の勉強になると覚えられないことがあるのでしょうか。
「好きなことは覚えられるのに勉強は覚えられない」「興味のあることは記憶できるのに、暗記が苦手」「何度勉強しても、学習したことが定着しない」。
このような悩みには、興味のあることと学校の勉強では、情報の受け取り方や覚え方が異なることが関係している可能性があります。
ここでは、勉強が覚えられない理由として考えられる4つの点について説明します。
① 興味のあることには自然と注意が向く
例えば、電車が好きな人は、電車を見ているときに、車両の名前や形、走行音、路線ごとの違いなど、さまざまなことに注目するのではないでしょうか。
誰かに覚えるように言われなくても、自分から違いを見つけたり、図鑑やインターネットで調べたりすることがあると思います。
ゲームが好きな人も、キャラクターの特徴や装備の性能、敵の弱点などに自然と注意が向くことがあるでしょう。
一方、学校の勉強では、必ずしも興味があるとは限らない内容を覚えなければならないことがあります。
記憶を形成するうえでは、情報に注意を向け、内容を処理することが大切です。注意が十分に向いていない情報は、覚えにくくなることがあります。
そのため、興味のあることは覚えやすいのに、学校の勉強は頭に入らないと感じる場合があるのです。
ただし、興味があれば必ず覚えられるわけではありません。興味は、情報を覚えやすくする要因の一つです。
② 興味のあることは自分なりに意味を理解している
好きなゲームについて考えてみましょう。
ゲームが好きな人は、キャラクターの特徴や装備の性能、敵の弱点などを覚えていることがあります。
「この敵には、この武器が有効」
「この装備を使うと、攻撃力が上がる」
「この場所では、この方法で進むとうまくいく」
というように、情報同士の関係を理解していることがあります。
このように、情報をすでに知っていることと結びつけたり、関連性を見つけたりすることで、覚えやすくなる場合があります。
一方、学校の勉強では、用語や公式を一つずつ暗記しようとしてしまうことがあります。
例えば、歴史の用語を覚えるときも、言葉だけを暗記するのではなく、「なぜその出来事が起こったのか」「その出来事によって何が変わったのか」という関係を理解すると、知識を整理しやすくなります。
また、英単語を覚えるときも、単語の意味を調べるだけでなく、例文の中でどのように使われるのかを確認すると、意味や使い方を理解しやすくなることがあります。
情報を単独で覚えるだけでなく、意味や関連性を理解することが、記憶を助けるのです。
勉強したことがなかなか覚えられないときには、ただ暗記しようとするのではなく、内容の意味や知識同士のつながりを考えてみることも一つの方法です。
③ 好きなことは繰り返し触れる機会が多い
好きなことについては、意識しなくても何度も情報に触れていることがあります。
例えば、電車が好きな人は、同じ車両を何度も見たり、写真を比較したりすることがあるでしょう。
ゲームが好きな人も、何度もプレイするなかで、操作方法や攻略法を繰り返し使います。
このように、繰り返し情報に触れたり、覚えたことを使ったりする機会が多いと、記憶が定着しやすくなります。
一方、学校の勉強では、授業で一度説明を聞いただけで、その後はあまり復習しないこともあります。
しかし、一度理解したことと、時間がたっても思い出せることは同じではありません。
例えば、授業中には理解できたと思っていても、数日後に問題を解こうとすると、答えが出てこないことがあります。
このような場合には、時間を空けて復習したり、教科書を閉じて自分で思い出したりする方法が役立つことがあります。
ただ教科書を読み返すだけでなく、覚えた内容を自分の言葉で説明したり、問題を解いて思い出したりすることも、学習したことを定着させるための方法です。
暗記が苦手だと感じる場合でも、復習の仕方や、覚えたことを思い出す練習を工夫することで、学習しやすくなる可能性があります。

④ 覚えやすさにはワーキングメモリーも関係する
ここで、ワーキングメモリーと勉強の関係についても考えてみましょう。
ワーキングメモリーは、情報を一時的に保持しながら、考えたり、整理したりする働きです。
例えば、先生の説明を聞きながら内容を理解し、前に習ったことと結びつけるには、聞いた情報を一時的に保持しておく必要があります。
また、計算問題を解くときには、途中の数字を覚えておいたり、問題文に書かれている条件を頭の中に保持したりすることがあります。
文章を読むときにも、前に書かれていた内容を覚えておきながら、次の文章を理解する必要があります。
ワーキングメモリーに負荷がかかりやすい場合、説明を聞いている途中で最初の内容を忘れてしまったり、複数の情報を関連づけることが難しくなったりすることがあります。
その結果、学習内容を十分に理解できず、記憶に残りにくくなることも考えられます。
一方、興味のあることについては、すでに知っている知識が多かったり、情報を自分のペースで確認できたりするため、情報を整理しやすい場合があります。
このように、好きなことは覚えられるのに勉強が覚えられない背景には、ワーキングメモリーの働きが関係している可能性もあります。
ただし、好きなことを覚えられるからといって、ワーキングメモリーに弱さがないとは限りません。また、学校の勉強が覚えられない原因が、必ずしもワーキングメモリーにあるわけでもありません。
記憶のしやすさには、注意、理解、すでに持っている知識、学習方法、睡眠やストレスなど、さまざまな要因が関係しています。
そのため、勉強が覚えられないと感じるときには、記憶力だけでなく、どのような場面で難しさが生じているのかを考えることが大切です。
WISC-Ⅴのワーキングメモリー指標(WMI)では何を測っているの?
ここまで、記憶の種類や、好きなことは覚えられるのに学校の勉強が覚えられない理由について説明してきました。
では、WISC-Ⅴで測定される「ワーキングメモリー」は、具体的にどのような働きなのでしょうか。
WISC-Ⅴのワーキングメモリー指標(WMI)は、主に、聞いた情報などを一時的に頭の中に保持しながら、注意を向けたり、情報を操作したりする力を評価する指標です。
例えば、聞いた数字を順番どおりに答えたり、逆の順番で答えたりする課題があります。
こうした課題を通して、情報を一時的に覚えておくことや、覚えた情報を頭の中で扱う力などを評価します。
ワーキングメモリーの働きは、学校での学習にも関係しています。
例えば、次のような場面です。
計算の途中で数字を覚えておく
文章を読みながら、前に出てきた情報と結びつける
複数の指示を聞き、順番に取り組む
ワーキングメモリーに負荷がかかりやすい場合、情報を頭の中に保持しながら別の処理をすることが難しくなり、説明の途中で内容を忘れたり、複数の情報を結びつけにくくなったりすることがあります。
そのため、学習したことがなかなか定着しない、先生の説明を聞いても理解しにくい、勉強した内容をすぐに忘れてしまうといった困りごとに、ワーキングメモリーの働きが関係している場合があります。

ただし、ここで注意したいことがあります。
WISC-Ⅴのワーキングメモリー指標は、記憶力全体や、長期記憶にどれだけ知識を蓄えられるかを直接測定するものではありません。
また、ワーキングメモリー指標の数値だけで、学習が苦手な理由をすべて説明できるわけでもありません。
好きなゲームの攻略法や電車の名前をたくさん覚えていても、学校の勉強ではワーキングメモリーに負荷がかかり、難しさを感じることがあります。
反対に、勉強がなかなか覚えられない理由が、必ずしもワーキングメモリーにあるとは限りません。
大切なのは、「記憶力が弱い」とひとまとめにするのではなく、情報を理解するときに難しさがあるのか、頭の中に一時的に保持するときに難しさがあるのか、それとも覚えたことを後から思い出すときに難しさがあるのかを考えることです。
WISC-Ⅴの検査結果は、本人の得意なことや苦手なことを理解するための手がかりの一つです。数値だけで判断するのではなく、実際の学習場面や日常生活での様子とあわせて考えることが大切です。
暗記が苦手・勉強が覚えられないときに大切なこと
勉強が覚えられない、暗記が苦手、学習したことをすぐに忘れてしまうと感じるときには、単に「記憶力が悪いから」と考えるのではなく、どの段階で難しさが生じているのかを考えてみることが大切です。
例えば、次のような違いがあります。
情報を一時的に保持するのが難しい:説明を聞いている途中で、最初に聞いた内容を忘れてしまう
知識同士を結びつけるのが難しい:一つひとつの用語は覚えていても、関係性がわからない
覚えたことが定着しにくい:一度覚えても、時間がたつと思い出せなくなる
必要なときに思い出すのが難しい:勉強したはずなのに、テストなどで答えが出てこない
もちろん、これらは互いに関係することもあり、一つの理由だけで説明できるとは限りません。
そのため、学習したことを忘れてしまう場合には、本人の様子に合わせて、学習の進め方や復習の仕方を工夫することが大切です。
例えば、次のような方法が考えられます。
・新しい知識を、すでに知っていることと結びつける
・説明を聞いたあと、自分の言葉で内容を説明してみる
・教科書を閉じて、覚えた内容を思い出す練習をする
・一度にまとめて勉強するだけでなく、時間を空けて復習する
・口頭での説明だけでなく、文字や図なども活用する
こうした方法が、すべての人に同じように合うわけではありません。
大切なのは、本人がどのような方法なら理解しやすいのか、どのような場面で覚えにくさを感じるのかを確認しながら、無理なく取り組める方法を探していくことです。
また、勉強が覚えられない背景には、ワーキングメモリーだけでなく、注意の向け方、学習内容の難しさ、学習環境、睡眠、ストレスなど、さまざまな要因が関係することがあります。
困りごとが続いている場合には、本人の努力不足や記憶力の問題と決めつけず、必要に応じて学校の先生や専門家に相談しながら、本人に合った学習方法や支援を考えていくことも大切です。

まとめ:好きなことは覚えられるのに勉強が覚えられない理由
好きなことは覚えられるのに、学校の勉強が覚えられない背景には、いくつかの理由が考えられます。
興味のあることには自然と注意が向きやすく、自分なりに意味を理解したり、知識同士を結びつけたりすることがあります。また、繰り返し触れたり、覚えたことを使ったりする機会も多くなりやすいものです。
一方、学校の勉強では、興味を持ちにくい内容を覚える必要があったり、ワーキングメモリーに負荷がかかったりすることがあります。
このように、覚えやすさは、単純に記憶力の良し悪しだけで決まるものではありません。
WISC-Ⅴのワーキングメモリー指標(WMI)は、情報を一時的に保持しながら、注意を向けたり、情報を操作したりする力を評価するものです。ただし、記憶力全体や、勉強が苦手な理由のすべてを説明するものではありません。
大切なのは、勉強が覚えられないことを、すぐに「記憶力が悪いから」と考えないことです。
内容を理解する段階で難しさがあるのか、情報を一時的に保持することが難しいのか、それとも覚えたことを後から思い出すのが難しいのかによって、必要な工夫も変わってきます。
また、暗記が苦手だと感じる場合でも、情報の意味を理解したり、すでに知っていることと結びつけたり、時間を空けて復習したりすることで、学習しやすくなる可能性があります。
好きなことを覚えるときに、どのように情報を受け取り、理解し、繰り返し使っているのかを振り返ることは、自分に合った学習方法を見つける手がかりになるかもしれません。
WISC-Ⅴの検査結果も参考にしながら、本人がどのような場面で困っているのかを理解し、その人に合った学習方法や支援につなげていくことが大切です。
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