
境界知能の小学生のお子さんの特徴と接し方
知的障害には該当しないものの、平均的な知的能力よりも低い水準にある「境界知能(知的グレー)」のお子さん。
境界知能とは、一般的に知能検査でIQ70〜84程度の範囲を指すことが多い言葉です。ただし、正式な診断名ではなく、同じ境界知能のお子さんでも、得意なことや苦手なことには大きな個人差があります。
境界知能のお子さんの中には、一生懸命頑張っていても授業についていくのが精いっぱいであったり、何度練習しても学習内容がなかなか身につかなかったりする子がいます。
一方で、知的障害の診断基準には当てはまらないことも多いため、周囲から困りごとに気づかれにくく、必要な支援につながりにくい場合があります。
近年では、発達障害や知的障害について広く知られるようになり、境界知能のお子さんが抱える困りごとにも少しずつ注目が集まっています。
そこで今回は、境界知能の小学生に見られる特徴や、学習面・生活面での困りごと、周囲の大人ができる接し方についてお話しします。
お子さんの特徴は成長とともに変化していきます。今回は、小学生のお子さんに焦点を当てて解説していきます。
境界知能の小学生のお子さんの特徴
境界知能のお子さんの困りごとは、小学校低学年のうちは周囲から気づかれにくいことがあります。
小学1年生は、幼稚園や保育園から学校へと環境が大きく変わり、学校生活のルールや文字、計算などを一から学んでいく時期です。そのため、文字を書き間違えたり、先生の話を最後まで聞くことが難しかったりする姿は、多くのお子さんに見られます。
一方で、境界知能のお子さんの場合、学校生活や学習に慣れてきても、同じような困りごとが続くことがあります。
例えば、ひらがなやカタカナを覚えるまでに時間がかかる、文字がマスからはみ出してしまう、見本と同じように文字や図形を書くことが難しいといった様子です。
また、一生懸命練習して覚えた漢字も、時間がたつと忘れてしまうことがあります。2文字の漢字を組み合わせた熟語についても、漢字それぞれの意味や組み合わせによる意味を理解することが難しく、熟語を一つずつ覚えようとするため、記憶する負担が大きくなる場合があります。
算数では、低学年のうちは数の概念を理解することに時間がかかり、足し算をするときに指を使って一つずつ数え上げる様子が見られることがあります。
九九を暗記することは比較的できても、かけ算が何を意味しているのかを理解したり、足し算とかけ算を場面に応じて使い分けたりすることが難しいお子さんもいます。
また、三角形や四角形などの形を見分ける問題でつまずいたり、文章問題の内容を理解して計算方法を考えたりすることが難しい場合もあります。
生活面では、先生の説明を聞き、内容を理解して覚え、実際の行動に移すという一連の流れに負担を感じることがあります。そのため、周囲からは「話を聞いていない」「忘れっぽい」と見えることもありますが、実際には、聞いた内容を整理したり、次に何をすればよいか考えたりする部分で困っている可能性があります。
さらに、学年が上がるにつれて、学習内容は少しずつ複雑になっていきます。
低学年では指を使いながら取り組めていた計算も、筆算や文章問題になると、複数の手順を考えながら進める必要があります。漢字も画数が増え、複雑な形を覚えて正しく書く力が求められるようになります。
そのため、本人は一生懸命取り組んでいても、「授業についていくのが大変」「何度練習しても覚えられない」と感じる場面が増えていくことがあります。
大切なのは、できない部分だけを見るのではなく、お子さんがどこで困っているのか、その背景にどのような苦手さがあるのかを周囲の大人が理解することです。
境界知能の小学生に見られる学習面・生活面の困りごと
境界知能のお子さんには、学習や生活の中で、次のような様子が見られることがあります。
・文字が枠からはみ出してしまう
・漢字や図形を正しく写すことが苦手
・忘れ物が多い
・ぼーっとして、話を聞いていないように見える
一見すると、ただ勉強が嫌いなだけ、やる気がないだけと思われてしまうこともあります。しかし、こうした行動の背景には、本人なりの苦手さや、学習・生活の中で感じている負担が隠れている場合があります。
頑張っているのにうまくできない経験が続くと、子ども自身も自信をなくしてしまうことがあります。さらに負担が大きくなると、学校に行こうとするとおなかが痛くなったり、問題が分からずプリントをくしゃくしゃにしてしまったりするなど、身体症状や行動の変化として現れることもあります。

ここからは、それぞれの困りごとについて、考えられる背景を詳しく見ていきましょう。
教科書や問題文の読み飛ばしが多い
教科書や問題文を読むときに、文字や言葉を一つずつ追うことに時間がかかったり、文章の一部を読み飛ばしてしまったりするお子さんがいます。
文字を一つずつ丁寧に読んでいく読み方は「逐次読み」と呼ばれます。逐次読みそのものが間違いというわけではありませんが、文字をまとまりとして捉えることが難しい場合、文章を読むことに時間がかかり、内容を理解するための負担も大きくなります。
また、文章の語尾を実際に書かれている言葉とは違う言葉で読んでしまったり、一行丸ごと読み飛ばしてしまったりすることもあります。
こうした読み方には、文字を正確に捉える力や、文章を読み進める間に注意を維持する力などが関係している場合があります。また、目の動かし方や、文字を順番に追うことの苦手さが影響している可能性もあります。
読み飛ばしが多いからといって、単に注意不足と決めつけるのではなく、どのような場面で読み間違いが起きるのかを確認することが大切です。
文字が枠から飛び出してしまう
ノートやプリントに文字を書くとき、文字がマス目からはみ出してしまったり、文字の大きさがそろわなかったりするお子さんがいます。
字を枠の中に収めるためには、文字全体の大きさを把握することや、それぞれの線の長さ、位置関係、形の構成を理解することが必要です。
例えば、文字のどこから書き始めればよいのか、どのくらいの大きさで書けば枠に収まるのかを捉えることが難しい場合があります。
これは、単に字をきれいに書く練習が足りないという問題ではなく、形の大きさや位置関係を捉える力、目で見た情報に合わせて手を動かす力などが関係していることもあります。
そのため、繰り返し書かせるだけでなく、どの部分で難しさを感じているのかを確認することが大切です。
漢字や図形を写すことが苦手
漢字や図形を見本と同じように写すためには、形全体を捉えるだけでなく、線の傾きや長さ、交差する位置、線と線の間隔などを理解する必要があります。
形を見て写すことが苦手なお子さんにとって、漢字を覚えることはとても大変な作業です。
例えば、漢字を一つのまとまりとして捉えることが難しく、見本を見ながら、目に入った線を一つずつ追いかけるように写している場合があります。
このようなお子さんは、何度も書いて練習していても、漢字の形がなかなか記憶に定着しないことがあります。
漢字を覚えるためには、ただ繰り返し書くのではなく、漢字の全体像や線の配置、形の特徴を捉えることも大切です。
忘れ物が多い
忘れ物をしないためには、先生や保護者から聞いた情報を覚えておくことだけでなく、準備をするときに必要な情報を思い出し、実際の行動につなげることが必要です。
例えば、先生から「明日は算数の教科書とノートを持ってきてください」と言われた場合、その内容を覚えておき、帰宅後に思い出して、必要なものをランドセルに入れなければなりません。
このような場面では、聞いた情報を一時的に保持し、必要なときに取り出して使うワーキングメモリー(作業記憶)が関係しています。
ワーキングメモリーに苦手さがあると、聞いた内容を覚えておくことや、複数の情報を頭の中で整理することに負担を感じる場合があります。
また、忘れ物には、記憶だけでなく、注意の向け方や準備の手順を考える力、持ち物を管理する力など、さまざまな要素が関係しています。
忘れ物を減らすためにメモをするよう促すこともありますが、メモを取ること自体が難しい場合もあります。
メモをするためには、話を聞きながら必要な情報を選び、覚えておき、文字にして書き残す必要があります。つまり、聞くことと書くことを同時に行う、とても複雑な作業なのです。
そのため、メモを取るように伝えるだけでなく、持ち物リストを作ったり、準備する場所を決めたりするなど、お子さんが自分で確認できる方法を取り入れることも大切です。
ぼーっとして話を聞いていないように見える
先生の話を聞いていなかったり、指示を聞き逃してしまったりするお子さんもいます。
特に学校の授業では、先生が長い時間話をしたり、クラス全体に向けて一度に複数の指示を出したりすることがあります。
こうした場面では、話に注意を向け続けることに加えて、聞いた内容を理解し、覚えておくことも必要になります。
注意を維持することが難しい場合や、耳から入った情報を理解することに時間がかかる場合には、先生の話についていくことが負担になることがあります。また、教室の中にある掲示物や周囲の動きなど、目に入った情報に注意がそれてしまうこともあります。
一方で、クラス全体に向けた指示では理解が難しくても、先生が個別に声をかけると理解できるお子さんもいます。
そのため、「話を聞いていない」と決めつけるのではなく、どのような伝え方であれば理解しやすいのかを確認することが大切です。

境界知能の小学生のお子さんに対する大人の接し方
周囲の大人には、境界知能のお子さんが抱える困りごとに気づき、そのしんどさを否定しない接し方が求められます。
例えば、お子さんがなかなか漢字を覚えられなかったり、漢字を書くことを嫌がったりしたときに、「練習が足りないから」と決めつけてしまうことは避けたいところです。
もしかすると、文字の形を捉えることが苦手なのかもしれません。本人は一生懸命頑張っているけれど、今の方法ではうまく覚えられないのかもしれません。
まずは、お子さんが頑張っていることや、取り組もうとしている姿を認めることが大切です。
そのうえで、「どうしたら書きやすくなるかな?」「どうしたら覚えやすくなるかな?」と、お子さんと一緒に考えてみましょう。
自分の頑張りを見てもらえた、困っていることを一緒に考えてくれたという経験は、お子さんの安心感につながります。
また、苦手なことを繰り返し練習するだけでなく、苦手さを補う方法を身につけることも大切です。
具体的な指示の出し方のポイント
日常生活や学習の場面では、次のような工夫を取り入れてみましょう。
・指示は短く具体的に伝える
一度に多くのことを伝えず、「まずは教科書を出そう」など、一つずつ伝えます。
・手順を紙に書く
口頭で伝えるだけでなく、やることを順番に書いておくと、忘れたときに自分で確認できます。
・見本を見せる
言葉だけで説明するのではなく、実際の見本や写真、イラストなどを使って伝えます。実際にやって見せることも大切です。
・一度にたくさん言わない
複数の指示をまとめて伝えると、途中で分からなくなってしまうことがあります。お子さんの理解に合わせて、一つずつ確認しながら進めましょう。
・本人が理解しやすい方法を探す
言葉で説明する、見本を見せる、実際に手を動かして経験するなど、さまざまな方法を試し、お子さんにとって分かりやすい方法を見つけていきます。
見た情報の処理には、色を分ける、表で表す、などやり方を工夫することも大切です。
・結果だけでなく取り組みを認める
正解できたかどうかだけでなく、最後まで取り組めたこと、自分で考えたこと、前よりもできるようになったことなどにも目を向けましょう。

大切なのは、周囲の大人が一方的にやり方を決めるのではなく、お子さんの様子を見ながら、理解しやすい方法や取り組みやすい環境を一緒に探していくことです。
境界知能のお子さんの困りごとには、その子に合った支援が大切です
境界知能のお子さんが学習や生活の中で困っていることには、それぞれ背景があります。
例えば、漢字を覚えることが苦手なお子さんでも、形を捉えることが難しいのか、覚えた情報を保持することが難しいのか、書く動作そのものに負担があるのかによって、必要な支援は異なります。
また、話を聞いていないように見えるお子さんでも、注意を維持することが難しいのか、聞いた言葉を理解することが難しいのか、複数の指示を覚えておくことが難しいのかによって、対応方法は変わってきます。
そのため、目の前の行動だけで判断するのではなく、「なぜ難しいのか」「どこでつまずいているのか」を理解することが大切です。

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